「本気で生きてきたか?」
「ギリギリに生きてみたか?」
放送期間:1976年2月28日~1982年2月13日
制作局:NHK
脚本:山田太一
出演者:鶴田浩二、水谷豊、桃井かおり、五十嵐淳子
【 解 説 】
ガードマンである特攻隊の生き残りという設定の主人公・吉岡司令補(鶴田浩二)と戦後生まれの若者である、杉本陽平(水谷豊)、島津悦子(桃井かおり)などが本音でのぶつかり合いながら世代間による価値観の違いを描いた作品。
若者との間に一定の距離を置きつつも自分の信念を曲げずに主張し続ける主人公のひたむきさに次第に惹かれていく若者の姿を描く。
「本気で生きてきたか?」「ギリギリに生きてみたか?」と問いただす主人公の言葉は実に説得力があるとされ、多くの視聴者から共感を呼んだ。
1975年から放送が開始されたNHK総合テレビ「土曜ドラマ」というシリーズ放送枠の第三弾として始まった。
ガードマンという仕事を題材にしてさまざまな場面での人間の価値観、信念というものを描いているが、放映当時の状況を考えると戦争を実際に体験した世代と戦後生まれ世代との価値観の違いは想像以上に大きかったと推測される。
そのような強い憤りがこのドラマを作らせた大きな原動力となり、また実際に戦争の惨禍を体験した世代である鶴田浩二が主人公に選ばれている。
シルバー世代の寂しさを扱った「シルバー・シート」と身体障害者の問題を真正面から捉えた「車輪の一歩」は特に評価が高く繰り返し再放送がされている。この「シルバー・シート」は1977年度の芸術祭大賞を受賞している。
「車輪の一歩」
身体障害者(車椅子)の女性は母親の監視の元、自由に外に出ることが出来ない。
そこに同じく身体障害者(車椅子)の男性6人が女性に対して「外に出ようじゃないか」と誘いかける。
女性はためらいつつも、一緒に外に出るが線路で車椅子がはまってしまい抜け出せなくなる。
遮断機が降り、すんでのところで女性は健常者に救出されるが失禁してしまう。
主人公がお詫びがてら、母親に謝るが母親はそっとしておいてください、とつっぱねる。
女性は「母に逆らいたくないわ」と言うが主人公は「君はそれでいいの?」と問いかける。
ある朝ついに女性は皆の見守る中、駅に行き「誰か私を(階段の上まで)上げてください」と助けを求める。
【YOU TUBE】 車輪の一歩 ラストシーン
第1話 非常階段 1976年2月28日
第2話 路面電車 1976年3月6日
第3話 猟銃 1976年3月13日
第1話 廃車置場 1977年2月5日
第2話 冬の樹 1977年2月12日
第3話 釧路まで 1977年2月19日 上
第1話 シルバー・シート 1977年11月12日
第2話 墓場の島 1977年11月26日
第3話 別離 1977年12月3日
第1話 流氷 1979年11月10日
第2話 影の領域 1979年11月17日
スペシャル 戦場は遥かになりて 1982年2月13日
【 内 容 】
第1部
「非常階段」
1.1976年2月28日
警備会社に勤務する吉岡晋太郎は、筋金入りのガードマン。
特攻隊の生き残りで50歳。
チャラチャラと遊んでいる若者の姿を見ると我慢ならなくなる。
そんな吉岡のもとに、柴田竜夫と杉本陽平の二人の新人が配属されてきた。
彼らの勤務先は自殺の名所として有名な高層ビル。
夜間の自殺者を防ぐことが三人の仕事である。
ところがある夜、そのビルに自殺を図る若い女性が忍び込んだ。
吉岡は陽平たちにギリギリに生きてきた戦時中から今にかけての自分の思いを語る。
若者に好かれようなどと思ってもいない吉岡に、若い陽平と竜夫はなぜか心引かれるのだった。
「路面電車」
2.1976年3月6日
ビルの屋上で自殺を図り、吉岡らに救われた若い女性・島津悦子は、吉岡に頼み込んで彼らの勤める警備会社に就職し、ガードマンならぬガードウーマンとなった。
悦子は柴田竜夫とともに吉岡に連れられスーパーマーケットでの万引きの警備に張り切り、犯人の女性を捕まえる。
だが、彼女の身の上話に同情した悦子は、自ら犯人を逃してしまう。
それを聞いた吉岡は、悪事に対して事情にかかわらず情けは無用と犯人を警察につき出す。
「猟銃」
3.1976年3月13日
柴田竜夫、島津悦子は警備会社の上司である吉岡との仕事上のふとした考え方の相違が原因でガードマンの仕事を辞めてしまった。
さらに同僚の杉本陽平も彼らを追うように辞職し、3人ともなんとなく気の抜けた日々を過ごしていた。
ある日竜夫は、母・裕子と吉岡が昔結婚までも考えた関係であったことを知る。
吉岡には、全くきれいな間柄であったと説明されるのだが・・・
そんな中、連続猟銃乱射事件の警戒警備中の吉岡を訪ねた3人は、そこで強盗事件に巻き込まれてしまうのだった。
第2部
「廃車置場」
1.1977年2月5日
体操競技会の警備をしていた杉本陽平は、不思議な行動をしていた青年と出会う。
彼・鮫島は、大企業を辞めて杉本の勤める警備会社にガードマンとして就職することになっていた。
鮫島は採用されるにあたって、司令補の吉岡に「配属される場所に関して、自ら選択しあるいは拒否する権利が欲しい」と申し入れる。
自分で納得できる仕事しかしたくないというその態度は、吉岡の共感を得るものの、会社の同僚たちの間に波紋を呼んでいく。
そんなある日、杉本と鮫島が警備をしていた研究所の裏通りで、事件が発生してしまう。
「冬の樹」
2.1977年2月12日
TV局から出てきたロックグループにファンの女の子たちが殺到し、その中の女子高生・平山美子(竹井みどり)が頭を打って気絶してしまう。
軽い脳震とうと診断された彼女を自宅へ送り届けた吉岡たちを、父親の修一は厳しく非難する。
後日改めて詫びに訪れた吉岡は、警備会社にのみ責任を押しつける父親の態度に憤り、逆に彼を叱りつけてしまい、10日間の停職処分を受ける。
そんなある日夜遅く、年上の恋人と酒を飲んでいた美子は、吉岡のアパートを訪ね、その理由を詮索する吉岡に、美子は自分の父にない何かを感じる。
が、恋人の存在を知った両親に一方的に叱られ、美子は家を出てしまう。
「釧路まで」
3.1977年2月19日
次の会場の北海道への移送を間近に控えた石像を展示中のデパートに、「展覧会を中止して石像をカンボジアに返さなければ爆破する」という手紙が送られてきた。
輸送方法が変更され、飛行機ではなくフェリーで33時間かけて東京から釧路へ運ばれることに。
警備会社の小田社長は、吉岡と杉本、鮫島の3名にその警備を命じる。
夜間の出航から一夜明けた頃、不審な寝袋が発見されるなど船内のあちこちに犯人の影が。
警戒を強める吉岡たちを尻目に、犯人は杉本に誘われて一般人として乗船していた同僚の島津悦子と浜宮聖子を人質にして彼女らの客室に潜んでいた。
第3部
「シルバー・シート」
1.1977年11月12日
空港警備を担当している陽平と悦子は本木という老人と知り合う。
誰彼となく話しかけたがる本木はガードマンから疎まれる存在。
ある日、本木が空港内で倒れる。
本木を遠ざけてきたことで、心に引っかかりを覚えた陽平と悦子は本木のいた老人ホームを訪れ、そこで、本木の友人たちに思わぬもてなしを受ける。
ところが数日後、老人たちは都電車庫の一車両を占拠してしまう。
一夜明けて今度は吉岡が電車に乗り込み、説得に当たる。
「我々は営々と働き続けてきた挙句に使い捨てられたのだ。あなたも同じだ。いつかはわかる」 老人たちの言葉に吉岡は……。
「墓場の島」
2.1977年11月26日
「墓場の島」というデビュー曲が大ヒットし、一躍大スターとなった戸部竜作は、彼を見出したマネージャー・和泉敬吾の厳しい管理の下に、分刻みのスケジュールをこなしていた。
戸部のガードを担当することになった杉本は、悪戦苦闘の中で仕事をこなすうち、いつしか戸部と心を通わせていく。
ある時テレビ局での本番収録中に戸部が暴漢に襲われ怪我をしてしまう。
杉本は和泉に殴られたうえに解雇を言い渡される。
抗議に行った上司の吉岡は、和泉が32年ぶりに会う戦友であることを知る。
その頃、作られたイメージと、変えられた自作の歌を歌うことに嫌気がさしていた戸部は…。
「別離」
3.1977年12月3日
ホテルの警備をしていた杉本は、調理場に侵入した男たちに暴行を受け負傷する。
知らせを受けた上司の吉岡とともに、同僚の島津悦子も心配して駆けつける。
軽傷だった杉本は、悦子に自分の秘めた思いを打ち明けるが、うまくはぐらかされる。
杉本に「悦子の気持ちを確かめて欲しい」と頼み込まれた吉岡は悦子を呼び出し、杉本との結婚を勧める。
が、悦子は「断って欲しい」とつれない。
その態度に吉岡は、何かを隠し思いつめている様子を感じとる。
悦子の体は重い病に犯されていたのだった。
第4部
「流氷」
1.1979年11月10日
悦子の死から、1年半が過ぎようとしていたが、吉岡は依然として姿を消したまま。
杉本は吉岡から小田社長宛てに届いた1通のハガキの消印を手がかりに北海道・根室へ向かい吉岡を捜すが、なかなか手がかりがつかめない。
そんな折、偶然に知り合った尾島という青年とともに人づてを当たる中、ついに吉岡の居所をつきとめた。
場末の居酒屋で皿洗いをしながら古びたアパートで酒浸りの生活を送る変わり果てた吉岡に、陽平は、一緒に東京へ帰るように勧める。
「帰ってどうする、東京に何がある?」と拒否する吉岡に陽平は「俺はまだ責任があると思う」と問いかける。
「影の領域」
2.1979年11月17日
杉本の尽力によって吉岡は帰京するが、杉本は姿を消してしまう。
吉岡は一警備員として働くことを希望し復帰するが、かつてのような覇気がない彼の様子に鮫島らは心を痛める。
一方、根室で知り合い上京した尾島兄妹は同じ会社に就職。
しばらくして兄・清次が配属された港の倉庫に、研修担当でもあった上司の磯田が深夜訪ね、車を貸すから、しばらくその辺をドライブして来いという。
不審に思った清次がこっそり見ていると、そこでは倉庫会社の主任と磯田が立会いのもとに倉庫が開けられ、荷物の一部がすり替えられていた。
「車輪の一歩」
3.1979年11月24日
商業ビルの警備をしていた尾島清次と信子の兄妹は、入口付近で動かない、車椅子の青年たちに移動するように頼む。
ところがそれから、車椅子の青年が次々と現れ頼み事をするようになる。
不審に思い青年たちを訪ねた吉岡に「二人をめちゃめちゃにしてやろうとしていたのだ」と告白する。
青年の一人、藤田は手紙で知り合った同じ境遇にある良子の家を仲間と訪ね、良子を外に連れ出すが帰りに車椅子の車輪が線路に挟まって騒ぎとなり、全員が自分の無力さに深く傷ついてしまったのであった。
そんな彼らに吉岡は「人に迷惑をかけることを恐れるな」と諭す。
さらに娘が一人で外出することを頑なに拒む良子の母に、吉岡は……
スペシャル
「戦場は遥かになりて」
1982年2月13日
吉岡は、なぜか極端に自分を避け、頑なな態度をとる若い警備員の森本を不審に思い、気にかけていた。
ある夜、尾島と組んで夜間巡回警備をしていた森本は謎の若者10数名の襲撃を受ける。
ひたすら逃げた二人の行動に対し、契約先の人間は彼らをなじるが、吉岡は「安全を優先した正しい判断だった」とかばう。
そんな吉岡に森本は「本当は意気地なしと思っているんでしょう」と突っかかる。
世代も背景も異なる警備会社の社員たちが、仕事の中から拾い出した疑問に対し真摯に向き合う姿を描く。主人公の吉岡司令補(鶴田浩二)は特攻隊の生き残りであり、戦争はどこから始まったのか疑問を持ち続けて生きる彼を中心に水谷豊(杉本)、桃井かおり(島津)、柴俊夫(鮫島)、森田健作(柴田)が時に激しくやり合いながら出口を探す道筋が語られる。
若者たちは様々な観点から問題を検討するが苦しむ側へのやさしさに流れてしまう若者に対して、吉岡は常に他人を受け入れることが難しい点と、だからこそ何を弱者に求めるのか、弱者とは何かを指摘しつづけ両者の葛藤が繰り返し描かれていく。最初に提示された問題が弁証法的に説明された結果、更に大きな問題が浮き彫りになったところで一話形式の物語が閉じられる。
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